カール・マルクス『資本論』:初見感想メモ

まんがで読破『資本論』『続・資本論』

 読んだ本は以下の通り。

資本論
資...
続・資本論
『...

本書の問題意識と資本主義の構造まとめ

 本書の問題意識と、本書による資本主義の構造は以下の通り。

 本書にはストーリーも付いているが、尺が長いし、キャラクターの感情も多分に入るので、読んでいるうちに構造の理解が抜けたり、感情に引っ張られたりする。なので、迷ったらスッキリまとまっている以下を読んだ方がいい。

まんがで読破『続・資本論』より

まんがで読破『続・資本論』より

まんがで読破『続・資本論』より

まんがで読破『続・資本論』より

用語のまとめ

 本書には経済を説明する用語がたくさん出てくる上、字面だけでは直感的に理解しにくいので、頻出の用語をいかにまとめる。

  • 使用価値:人の価値観やその時の状況で判断される価値。
  • 交換価値:それを生産するのに使われた労働力の総和で判断される価値。
  • 剰余価値:労働者の労働食の価値(賃金)を超えて生み出される価値。
  • 特別剰余価値:新技術の開発や導入などの生産性上昇によって得られる剰余価値。
  • 搾取:資本家が労働者から剰余価値を奪い取ること。この搾取の量がすなわち利益になる。
  • 生産手段:生産するための機会や原材料のこと。
  • 可変資本:労働力購買のための資本。生産過程で剰余価値を生み出す。
  • 不変資本:機会や原材料などそれ自体が剰余価値を生み出さない価値が不変の資本。
  • 労働力の価値:労働者が日々生活し、労働力を維持、発達させるための費用で決まる価値。
  • 信用創造:銀行が預金から融資を行うことによって、銀行の債務と市場に流通する貨幣を増やすこと。

交換価値=価格とすると現実の市場経済を説明できない

まんがで読破『資本論』より

 かけた労働力で価格で決まるなら苦労はない。実際には、使用価値による需要と生産や販売戦略を通じた供給量なんかも価格には影響する。この概念の頼りなさが本書が敬遠されやすい一因な気がする。

交換価値
→ 社会的に必要な労働時間で規定される「基準」

価格
→ 需要・供給・競争・独占・投機などで上下に揺れる「現象」

 本書の「注釈」を見るにおそらくはこういうことなんじゃないかと思う。ならば交換価値とは簡単に言うと「原価っぽいもの」か。

 交換価値はあくまで「基準」であり、貨幣社会ではそれに加えていろんな要素が絡み合った結果、「そういう価格」という「現象」が発生する感じ。

等価の物々交換ではなく利益を狙って活動するのが資本主義

まんがで読破『続・資本論』より

 「等価の物々交換を是」として資本主義を眺めると、資本家が労働者に不当な交換を強いているように見える。

 しかし、等価(「交換価値」どおり)で労働力と賃金を交換していては資本家に利益は残らない。

 利益が残らないのに、売れるかわからないのに生産設備を整えたり、原材料を仕入れたり、またその販売を計画したりすることはできない。慈善事業じゃないんだから。

 この前提を頭に入れてから世界を眺めないと、「資本家がいかに悪く、労働者がいかにかわいそうか」という薄い見方しかできなくなる。

利益を最大化したいなら「搾取」するしかない

まんがで読破『資本論』より

まんがで読破『続・資本論』より

 生産設備や原材料からは「搾取」できない。本書ではこういうものは「不変資本」として「それ自体では剰余価値を生まないモノ」に分類している。

 これは現実世界でもきちんとそうなっているように思う。例えば、バナナ1本は放っておいてバナナ2本の価値にはならない。バナナから剰余価値を作りたいならそれを生産する人間を安く雇うか、安く生産できる技術や機械を導入するしかない。こうやって人間を安く買いたたいて剰余価値を得ることを本書では「搾取」という。

 また、技術や機械の導入で得られる剰余価値を本書では「特別剰余価値」といい、これは穏便に見えるが、人間の労働力を相対的に安くすることなるだけで、「搾取」の構造を解決するモノにはならない。

 「搾取」というと聞こえが悪いが、これはつまりは「資本家が利益を得ようとすること」であり、悪意に基づいた非道な行動ってことじゃない。

交換可能な労働者になった時に「搾取の構造」に取り込まれる

まんがで読破『続・資本論』より

 結局のところ、「剰余価値を生む燃料としての労働者」は搾取の構造から逃れることはできない。

 これは製造業における工場労働者には顕著だが、その他のビジネスでも同じこと。

 なんにせよ、自分で生産手段を持たないことには、それがどんなに輝かしい労働に見えても、実態は「剰余価値を生む燃料としての労働者」である。

まんがで読破『資本論』より

 「クリエイティブ(笑)」だって、会社、すなわち「資本家が用意した労働環境」がなければなにもクリエイトできないわけである。なので、自分のやっている目の前の仕事だけでなく、「仕事全体の構造」を眺めて考えないと、「悲惨な勘違い」をしてしまいがち。

リスクを負っているのはメーカーよりも売り先が限られてるサプライヤー

まんがで読破『続・資本論』より

 メーカーの増産に応えるために、サプライヤーは原材料の仕入れや生産設備を自前のリスクで増強する。これは、メーカーからの発注があるうちはいいが、なくなると売り先がメーカーしかないサプライヤーは仕入れコストの回収ができなくなる。

 サプライヤーも売り先を複数持っていればいいが、メーカーの数は限られているし、サプライヤーもその限られたメーカーの細かい需要に応えきれるとは限らない。

 なのでメーカーが沈むときはサプライヤーも沈む。これが連鎖倒産の仕組み。

不況・恐慌はお金の流れのリセット

まんがで読破『続・資本論』より

 利益獲得競争が進むと、似たような商品が市場に並び、明確な優劣が付きにくくなる。そうなると市場の売り上げは個々の企業に分散するので、資本家の利益は減り、労働者の買い叩きが加速する。

 労働者は同時に消費者でもあるので、十分な消費ができなくなるくらいに買い叩かれると消費を減らす。するとさらに売り上げが減って資本家の利益は減る。

 こうやって産業が成熟して解体されるとき、不況や恐慌が起きる。

 そうなると資本家と労働者は別の産業にシフトする。そしてまた新しい産業が成熟していくことを繰り返す。

 こう考えれば株式投資において長期的には暴落局面があるのは当然か。

日本の「悪しき」とされている企業慣行は資本主義のブレーキだった

まんがで読破『続・資本論』より

 現代では、「イノベーションを妨げる悪しき慣行」として続々と姿を消している日本の企業の慣行は、利益獲得競争が苛烈になって、悲惨な目に遭う人を減らすための「ブレーキ」、つまり安全装置になっていたように思う。

 終身雇用をはじめとした労働者保護は、「剰余価値を生む燃料としての労働者」が使い捨てられないようにしてきた。護送船団方式の企業の組合は、メーカーの都合でサプライヤーだけが不利益を被る構造にならないようにしてきた。

 とはいえ、上記のように成熟した産業で競争を続けるので「新しい産業のイノベーションを妨げる」という点では間違ってない。

感想:資本家叩きのための本じゃなかった

 小林多喜二の『蟹工船』をはじめ、広くプロレタリア文学の土台となっている本書について、「資本家の悪事を告発する本」だと思っていたが、そうではなかったように思う。

 資本家は資本主義の構造の中でそれぞれが合理的にふるまっているだけで、どこかに悪意があるわけじゃない。本書は「どうして資本家がそうふるまうのが合理的なのか?」を資本主義の構造と合わせて解説してくれている。

 また本書は資本家だけでなく、労働者にも「地獄のような労働環境が出来上がる仕組み」を教えてくれているので、自分がそういう労働者にならないようにするための示唆を与えてくれる。まぁこの辺はストーリー仕立ての『蟹工船』の方がイメージしやすいかもしれない。

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