柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』(1~4巻):感想メモ

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柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』(1~4巻):感想メモ

生活保護の理解

よく人類はここまでたどり着いたなって感じですよね。人類が生まれてからの積み重ねで、これを最低限保障しないと社会というものが保てないって分かってきたということだと思います。その社会に生きる人それぞれが人間らしく生きるために最低限ここだけは保障しようねってラインだと思うんですよ。そしてそれは結局、社会全体を維持するために必要なものなんだと思います。だけど、これを失うのってすごい簡単なことだと思うんですよね。多くの人にとって空気のように意識されずに存在しているものなので。でも、それをちゃんと憲法に入れて、守るべき大事なものなんだという風にしたことは、ものすごい価値がある。— 柏木ハルコ、「『健康で文化的な最低限度の生活』連載の漫画家、柏木ハルコさんに聞く」朝日新聞デジタル、2016年7月4日

 「社会で生きること」は「リソース獲得のための競争」であり、その時代、その場所の状況に合わせて、その「社会」に生きる人は合理的にふるまわないと競争に負ける。が、「競争は0から一斉にスタートを切る公平さ」はない上に、それでもすべての人がこの競争にルール通りに参加してくれないと「社会」は成り立たない。

 そう考えれば、生活保護はそんな不公平な競争を強制する社会が用意して然るべき制度であることはすんなり納得できる筆者は生活保護が温情して存在する、というよりも、むしろ「社会」が支払わなければならないコストだと思っている。

「ギリギリの生活」はしんどい

 100円の市場価値は100円分だが、100円の存在価値はその人の収入に比例する。貨幣そのものは中立でも、「その貨幣が乗る人生の文脈」が価値を大きく変えてしまう。

 これは筆者も実感しているところ。さらに言うと「5大リソース(お金、時間、健康、人間関係、社会からの承認)」が足りていない状態では冷静でいられなくなる。冷静でいられないと状況を改善する行動がとれずに、リソースは時間とともにさらに減っていく。

 5大リソースはどれかが欠けた状態だと他のリソースを食いつぶしてしまう。「お金」は目に見えるのでわかりやすいけど、「ギリギリの生活」は「お金」以外のリソースもなくなってしまってる状態だと思う。そしてこれはしんどい。

柏木 ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

 そして「ギリギリの生活」のしんどさにさらされ続けると独力では再起不能になる。

 そして残念ながら生活保護では「5大リソースすべてを補填する」ということはできないので、結局は「自力」が試される。

柏木 ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

「ルール通りにふるまうこと」もしんどい

 法律や制度のルールは文字で書いてあり、公開されている。が、その情報にアクセスして、内容を理解し、その通りにふるまうことは簡単じゃない。

 ルールを知らない、理解できない、または、その通りにふるまえないことを「バカだ」と断罪したくなる気持ちもわかる。確かにそれをするための「教育」はされてきたように思うから。

 が、それが「できたにせよ、できなかったにせよ、それはしんどいこと」であることはわかっておいた方が、自他にやさしくなれそうな気はする。(まぁ他者の責任はとれないけども)

 確かに学校をはじめ「教育」をされてきたが、「生物としての人間」として、法律や制度に則って行動することは自然とは言えない。訓練と努力によってそれができるように仕上がるわけだから、「それができないという個体差」はある程度仕方がない。

柏木 ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

 しかし、残念ながら「仕方ない」ではルールは形骸化してしまうので、きっちり「アウト、セーフの線」は引かれる。最終的にこの判断を下す人もまた「しんどい」だろうなぁと思う。

柏木 ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

 が、「やりようがある」のも事実でそれが救いだが、それは「ジャッジ」の判断なのでいつもいつでも救われるわけじゃない。

柏木 ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

「生きれる」と「生き続けようと思える」は別

 すべてルール通りに事が進み、生存は何とかなったとしても、次に「生存し続けてどうする」という問題がある。

 たぶん、生活保護に至るまでにいろんなリソースを消耗してきて、現状は「とりあえず生きていくお金」はあるけど、それを元に生きる意味を見いだせないと、そんな「ギリギリな生活」を生き続けようとは思えない。

 生活保護は「あなたが生きる意味」までは与えてくれないので、それを見出して、行動する力を生み出すのは、結局のところ「自力」なんだろうなぁと思った。

柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

柏木 ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』より

感想:筆者の見立ては大体正しかったんじゃないかと思った

 筆者は「5大リソースを十分に持っておく生き方」を何より重視して、そのためには「やりたいこと」もリソースに余裕を持てる範囲内でしか望まない、という外から見たら何とも味気なく、そしてつまらないであろう生き方をしている。

 結局のところ、これらのどれかを失うと他のリソースも連鎖的に枯渇し、最後は「精算したくなくなるレベルの負債」を背負うことになる。この状態になっては、とりあえず生存のためのお金をあてがわれても、元の状態に戻るための気の遠くなる努力が待っていて気が滅入る。いや、そもそも元に戻れるとも限らないわけである。

 「日ごとにできることが増えていくような生き方」でないと、明日も生きていこうという気になれない。差し引きゼロでも寿命は1日分減ってるのでアウトくらいに思っている。だから、「浪費のための借金」なんて絶対しないし、「冒険」もシビアに見積もったリスク許容度の範囲でしかしない。

 そういう筆者にとって、この漫画はさらに生活に緊張感を与えてくれたモノと思っている。

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