散見される「NISA陰謀論者」の主張がよくわからなかった
「NISAは政府の陰謀だから手を出さない方がいい」みたいなNISA陰謀論がネットを中心に散見される。確かにNISA制度によって証券会社は儲かるだろうなぁとは思うが、筆者はさすがに「政府の陰謀」とまで大袈裟には考えていなかった。だいたい、もし政府が何らかの陰謀を持ってNISAを作って国民をハメて、政府は国民から何を得たいんだろうか?金が欲しかったら増税したり、社会保障をカットすれば事足りる。むしろ、NISAを通じて破産者を出せばそこにあてがう生活保護なんかの社会保障費が膨らんで損するだろうと思う。
さらに言うと、NISAの枠なんてたったの1,800万円しかない。これに借金して金を突っ込むにしても、住宅ローンを組んでる奴らの方が圧倒的に少ないし、一括で3,000万円以上を突っ込む住宅ローン組に比べて、NISAはMAXで年間360万円しか入れられない。しかもそのうち投機的な取引ができるのは成長投資枠の180万円だけ。なので仮に借金をしてNISAで株式投資をしても調子が悪ければ小さい借金で市場から撤退できる。
上記のように、考えれば考えるほど「NISA陰謀論者」の考えはよくわからないでいた。実際に、「NISA陰謀論者」と言ってものの、この人たちは論と言えるほど論理的に説明してはいないのだけど。。
森永卓郎氏が「NISA陰謀論者」と同じことを言っていたので話をまとめてみた
「NISA陰謀論者」の考えがわからないままネットを彷徨っていると、名前を出している「NISA陰謀論者」として森永卓郎氏を見つけた。その辺の有象無象の「NISA陰謀論者」よりはよっぽど論理的に教えてくれそうなので、その主張を聞いてみた。森永卓郎氏の「NISA陰謀論」はいくつかあったが、似たものが多かったのでソースは以下の3つを貼っておく。
森永卓郎氏のロジック
森永卓郎氏が「NISAはやらない方がいい」とするロジックは以下の通り。ソースは上記の番組の動画なので、編集等の都合で森永卓郎氏の論がまともな形を保てなかった可能性もあるが、それは視聴者に判断できることではないので、とりあえずその可能性は無視しておく。
主張1:株価は大暴落して株式市場参加者はみんな損する
森永卓郎氏は過去の株式市場の暴落を例に、「株は必ず暴落するので、NISAで株に投資すると損をする」としている。
どれくらい暴落するのか、と言うと日経平均とNYダウは3,000円まで値を下げるらしい。
主張2:資本主義は持続しないからNISAはやらなくていい
続いて森永卓郎氏は、「資本主義は持続しないのでNISAで株に投資しても意味がない」としている。資本主義が持続しない理由をカール・マルクスの論を例に以下のように挙げている。
- 人間のイノベーションは限界に来ているのでこれ以上企業は儲けることはできない。(半導体やAIは過去の技術の焼き増しであるのでイノベーションとは言えない)
- 世界には許容できない格差が生まれていること。(たぶん、これによって商品を生産してもそれを買える人がいなくなると言うこと)
- 地球環境が破壊されているということ。(たぶん、従来の経済活動自体ができなくなると言う意味)
- 少子化によって人口が減ること。(たぶん、生産者と消費者が減ってしまうので経済規模が小さくなると言う意味。
- ブルシットジョブが氾濫すること。(たぶん、これによって労働者の尊厳がなくなって働かなくなると言う意味)
以上のことは現在地球上の至る所で起きており、その程度はもはや限界に近いので、資本主義は持続せずに終わると言うことらしい。
森永卓郎氏のロジックへのツッコミ
ツッコミ1:市場参加者は株式市場の暴落は想定済み
上記の「主張1」に対するツッコミとして、「まともな株式市場の参加者」は市場の暴落を想定済み、と言うことがある。
確かに、森永卓郎氏が言うように株式市場は暴落するのは事実である。が、一方で以下の画像のように株式市場はその後に値を戻すどころか、それ以上の値になっているのも事実である。それなのに暴落の事実だけをもって「株式市場は暴落するので参加しない方がいい」とするのは正しくないどころか、ずるいと思う。
さらに、NISAによる株式投資は「積み立てによる長期投資」を前提としている。なので、それがわかっている「まともな株式市場の参加者」なら暴落時にも積み立てを継続し10~30年のスパンで運用を続けるはずである。
確かにNISAを制度の意図通りにまともに使っても、結局のところ株式の価格は「時価」なので、それを取り崩す必要があるときに損をしていることもあるかもしれない。しかし、それは株式投資とはそもそもそう言うものなので、それはNISA制度の批判とは関係ない。
出典:
どうにも以下の主張を見ると、「数年後に必要な生活のための資金を株式に全投資する人」は危ないよね。だからNISAなんてやんない方がいいよね!という、そもそもNISAん使い方を間違えている人が痛い目を見る、と言う当たり前の事実が、さもNISA制度の問題であるように語っているように思う。問題があるのは「数年後に必要な生活のための資金を株式に全投資する人」だから。
疑問2:資本主義が持続しないなら株どころか通貨を持ってても意味がないのでNISAをやろうがやるまいが同じこと
上記の「主張2」でまとめたカール・マルクスによる「資本主義が終わる条件」を持ち出して、「現状はその条件を満たしているので資本主義は終わると考えている」としている森永卓郎氏の主張はダイナミックである。
というか、それを言い出したら株もそうだけど既存の現金ですら無価値になると思うが。。資本主義が終わって、あらゆる「資本」が無価値になるなら逆にNISAで株に投資しちゃっても問題ないんじゃないかと思う。
じゃ資本主義が終わるとしてどうなるのか?と言う話になるが、森永卓郎氏はカール・マルクスの論に立脚しているのでどうせ、「共産主義的な社会になる」とか言い出す気がしているが、それなら土地や生産設備を買い込んでも「共有」になるから意味ないし。
まぁ健康や人間関係に投資するってのが現実的な気もするが、それは資本主義社会の下でもある程度は同じか。。つまり、やった方がいいことはあんまり変わらないと思われる。
おまけ:カール・マルクスの『資本論』に立脚するのは無理がある
『あつまれ経済の森』で森永卓郎氏が引用していたカール・マルクスの『労働価値説』だが、これも何だかよくわからない。
カール・マルクスの「労働価値説」は、商品の価値はその生産に必要な労働時間(「社会的に必要な労働時間」)によって決まる、と言うものらしい。
商品の「価値」とは、商品の「価格」とは異なるもので、イメージ的には「価値」は「価格」の土台らしい。
「社会的に必要な労働時間」とは、同じ商品を生産するために、平均的な技術と労働強度でかかる時間のことで、特定の誰かが決めるのではなく、社会全体の生産条件や技術水準、労働者の熟練度などによって自然に決まるらしい。なので例えば、無能な労働者が「しょうもないモノ」を作るのに大量の時間をかけて作っても、その商品の価値は高くはならないらしい。
カール・マルクスはこの「労働価値説」で「労働者が生産したモノを資本家がその価値に見合わない価格で買い叩いている」と批判している。
「給与に見合わないんだと思ったら労働者は転職すればいいじゃん」とか、「商品の労働価値が高いと見積もられても需要がなくて市場価格が低かったら、資本家に利益は入らないから、結局のところ賃金が低いのは商品を高値で売れなかった労働者のせいなんじゃないの?」とか、ツッコミどころは山ほどある論だが、これに立脚して株式の価格を語っている時点でその後の論理に安心できない。
結論:森永卓郎氏の「NISA陰謀論」は無視でいい
「長期投資をするにあたっては、SNSを見ない方がいい」って話はだいぶ納得した。
余談だが、森永卓郎氏の言う「教養がない奴ほどお金で幸せを買おうとする」とか「自給自足の考え方」については筆者も同意見。さらに「日航機123便の話」と「ザイム心理教の話」は仮に間違いだったとしても楽しませてもらった。
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